四。戦士たちの世界(12) ・戦士階級と国家秩序及び封建制: この時代の西欧における俗人領主階級は同時に戦士の階級でもある。この階級の男性には重装騎馬戦士としての活動が共通に課せられている。ただし階級上層部では政治的支配者としての役割が大きく、中層、下層においても何らかの行政的・司法的職務を帯びているものが見られる。元々この階級の上層部は高貴な血統を受け継いでいると看做され、貴族と呼ばれていたが、時代が進むにつれ、中層、下層もまた貴族の範疇に入っていった。 この階級に属する者達にとって、自らの権利の実現のために武力を行使する権利は最も基本的なものである。しかし、彼等は全く独立の権力主体であったわけではない。彼等の中には、二つの支配、服従の原理が働いている。
一つは漠然とした国家意識であり、これによって彼等は国王を思考の存在と認め、様々の留保をつけながらも自分達の服従義務を認めていた。このような君主政規範は、どんなに王権が弱体化しても完全に消滅する事は無かった。 もう一つは封建的主従制(レーエン制)の原理であって、二人の人間は臣従礼と呼ばれる儀式的契約によって主君と家臣になり、主君からは庇護が、家臣からは助言と助力が提供されるというものである。助言は主君を中心とする集団的な政治・司法活動への参加を意味し、助力は重装騎兵としての軍事奉仕を意味する。一般にこの契約には、主君から家臣への封(feodum)の貸与が伴う。封となりうるのは所領、税など持続的に収益を生む財産であり、この貸与は無償である。この時代では次第に封の授受が主従関係の設定にとって決定的要件と看做されるに至った。ただし実際には、家臣となる人間がそれまで自分のものとして保有していた「自由財産」(13)を主君からの封と認める事によって、擬制的な授封が行なわれる場合も多い。また封の相続が一般化した事により、主従契約も主君、家臣の相続人によって更新されるのが通例となった。尚封建的主従せいの形態、浸透の度合いには、地域や時期によってかなりの相違がある。 国王への服従にせよ封建的主従制にせよ、その拘束力はコンスタントなものではない。… ・戦士階級の諸階層: 戦士階級の中にも幾つかの階層が認められる。一般に、自有財産であれ封であれ、安定した世襲的領有の対象となる支配権の規模と性格が、領主の階層を規定する。
この階層構成は大陸とイングランドでは大きく異なっていた。…ドイツ、フランスでは中世初期に形成された広域的な行政単位を、10,11世紀から大貴族が私的に領有するに至った。彼らが王国レベルで諸侯と呼ばれる。これについで中規模の土地領主であり裁判領主である地方貴族の階層があり、更にその下には小規模土地領主の集団が存在する。これに対してイングランドでは、この時代を通じてシャイアと呼ばれる行政単位が王に直属しつつ存続しており、この区画の一つを完全に支配下に収めてしまうような貴族は例外的存在であった。ここでは戦士の上層部は、分散した土地所領を下封された国王直属の家臣であるバロンによって構成される。彼等の下では多数の小規模土地領主が陪臣の位置を占める。 こうした世襲的な所領を保持しない、家中戦士の集団も西欧全体に広く認められる。…